新野洋:いきとし "いきもの" |
展覧会 |
執筆: 記事中参照 |
公開日: 2011年 3月 17日 |
京都造形芸術大学で絵画を学んだ新野は、卒業後オーストリアのウィーンに留学しました。幼い頃慣れ親しんだ故郷である京都の自然に憧憬の念を持ち、昆虫を題材とした絵画を描いてきましたが、留学先のウィーンにて立体での表現へ移行することになりました。自然の中に存在するさまざまな美しいかたちを作品に取り込もうとするほど、あらゆる角度にそのかたちを取り込むことができる立体をミディアムとして選択するのに時間はかかりませんでした。以後独学で樹脂の扱いを学び、自然が作り出す繊細な造形美に比肩しうる表現スタイルをウィーンで確立し、制作を続けてきました。 新野が作り出す昆虫のような形をした“いきもの”は、実際に存在している様なリアルなものばかりですが、全てこの世界に存在しません。彼の創り出すこの新しい造形物は、複数の節足動物の部位を組み合わせたり、花や植物の部分を融合させるなど、自然界にあるかたちや色を忠実に守り構成されています。彼の観察力と感性を駆使した、空想のみの世界に留まらない現実感を強く喚起させる小さな“いきもの”が、彼の手から続々と生み出されているのです。この“いきもの”たちに込められているものは、自然界に存在する美しいものをただただ自らの手で表現したいという、彼の実直で愛情に満ちた自然への思いなのです。 新野にとって帰国後初の本格的な個展となる当展では、日本の生物を題材とした新作をインスタレーションのスタイルでご紹介いたします。それぞれの地域の気候の違いにより、自然界の生物は多様な色合いやかたちを見せます。日本は、雨期と乾期、寒暖といった四季が存在し、そこから生まれる様々な生物は、しなやかでやわらかいかたちと原色の少ない淡い色合いを自らのうちに持っています。そこに着目した彼は、日本の自然界にあるものを一つ一つ拾い集め、それらを自らの感覚で組み合わせ新たな生命を吹き込んだ“いきもの”たちをギャラリー内に展開します。こうして作り上げられた作品を通じて、身近な自然界にある現実と空想を行き来するような感覚をお楽しみいただける内容となっております。また会期中には、芥川緑地資料館/あくあぴあ芥川の学芸員山中みのり氏をお招きし、生態学の観点から新野の“いきもの”を分析していただき、美術以外の領域から見た彼の作品の面白さを語っていただくトークイベントも開催いたします。 新野が創造する“いきもの”の世界は、私たち人類が文明を持つ前から生物の進化を支えてきた自然への深い敬意の表れです。自然界には最高の美が存在しており、私たちはいくら努力を重ねてもその位置に到達することは決してできません。けれども、彼の自然へ対する純粋な思いから一つ一つ細密に作り上げていく“いきもの”の中に、私たちは豊かで美しい自然に支えられ守られているという幸せを感じ取ることができます。 新野 洋(Hiroshi Shinno) 主な個展・グループ展 トークイベント「生態学から語る "いきもの" 」 ※全文提供: YOD Gallery 会期: 2011年4月9日(土)-2011年5月7日(土)※4月22日(金)は4月23日(土)休廊 |
最終更新 2011年 4月 09日 |
昆虫好き必見の展覧会である。会場に入ると4つのテーブルが置かれている。その上には春夏秋冬のドライフラワーが並び、植物にまぎれるように新野が制作する「いきもの」が生息しているのだ。
鑑賞者は森で昆虫を探すように新野の作品(いきもの)を見出したとき、新たな生命を発見した驚きを感じるだろう。
これらの作品は、植物の葉を樹脂でかたどり、造形化した後に着彩を施して完成する。産毛や手足の細かい造形まで表現された高い技術には感嘆する。
だが、新野が制作するいきものは工芸でもフィギュアやオブジェでもない。新野の「いきもの」がこれまでの昆虫(風)の作品と違うところは、既存の自然界に存在するいきものの再現ではなく、植物の形態を参照して生まれた新しいいきものだという点だ。
だから新野の制作する「いきもの」は、自然界に存在するドライフラワーと並列しても遜色がない。人間の手による作品は、自然が生み出した造形にはかなわないところがあるが、新野の造形には植物との親和性があるため、自然物と調和しているのだ。植物と昆虫、人口と自然のハイブリッドな造形は、新たな生命=いきものの誕生に立ち会うことに他ならない。