森末由美子:ある日静かに |
展覧会 |
執筆: カロンズネット編集 |
公開日: 2010年 2月 09日 |
削られて円盤のようになった本、支点から外されて裳裾のように翻る扇、ブラシ部分が髪の毛のように伸びて繋がった2 本の歯ブラシ。森末由美子は身近にある日用品を変容させて不可思議な光景をつくり出します。見る者は驚き呆然とし、やがて「くすっ」と笑ってしまう、ユーモアとエスプリを感じさせる作品です。 おなじみの赤いキャップの食卓塩。瓶に印字された商品名が、瓶の中の塩にも同位置、同サイズ、同色で読み取れます。ロングセラーの商品が名前を呼ばれ続けた挙句、染み付いて自然に浮かび上がってきたかのような不思議な力があります。軍手の指先は滑り止めの突起部分が1cm 以上も伸び、まるで植物が繁茂しているようです。中でも本をモチーフにした作品では、文学全集も百科事典全巻も激しく磨り減り、風に流される砂丘のように倒壊しています。取り上げられ、捲られ、見つめられた、行為と時間が具現化されたようなかたちに眩惑され、境界が揺らぐような感覚を憶えます。 森末由美子は2009 年に京都市立芸大大学院を修了したばかりの若手作家です。当初版画科でシルクスクリーンを制作していましたが、重なるインクの層の高さが気になり始め、鰹節パックやバンドエイドなどの既存のものに版を刷り重ね、そこから平面だけでなく立体作品も制作するようになりました。 素材となる日用品は様々ですが、中でも本をモチーフにした作品が数多く目立ちます。いずれも削られて摩滅し、意味を消失した文字の残骸が等高線のように現われています。見えなくなった言葉が、聞こえない音を奏でているようなダイナミズムを感じさせる作品です。 今展ではこうした作品約15 点を展示予定です。誰もが使い慣れた品物に起こった、皆の行為と想いのかたち。愉快でちょっぴり怖い作品たちをご覧下さい。 森末由美子プロフィール 個展: グループ展: 受賞: 2009 京都市立芸術大学制作展大学院市長賞 ※全文提供: INAXギャラリー2 |
最終更新 2010年 3月 01日 |
作品を観ながら、くすりと笑ってしまった。
会場には、本や調味料、歯ブラシ、軍手など、日常生活でよく目にするものが並んで居る。しかし、よく見ると、並べられた本は倒れる動きを表すように上部削られ、塩の瓶には外側ではなく中の塩にラベルの模様が描かれ、並んだ2本の歯ブラシは毛が繋がっている。モチーフの印象はしっかりと捉えながらも、作者のウィットに富んだ視点が「製品」を「作品」へと昇華させていく。同時に、発想だけに頼らず、滑らかに削られた本の質感や、針金を文字形に曲げて作った小さな作品の佇まいなど、物としての美しさも兼ね備えられていて気持ち良い。
出合ったばかりの人とも一緒に楽しめそうな展覧会、気軽に寄って気分転換になりそうだ。