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Published: January 17 2013 |
[作家コメント] 抽象と具体 二つのノート 田中功起 ノート0:すこし抽象的に、なぜ絵画で、愛なのか その手にはなんの技術もなく、ましてやそれがなにを意味するのかもわからず、言葉にすることもできず、はじめて好き勝手に絵を描き始めたときのことを覚えている。 はじめて描いた油絵のことではない。はじめて描いた油絵はひどいものだった。 写真に撮られたどこか見知らぬ湖畔の風景を、絵の先生に指導されて、そのやり方に沿って描いたものだった。 まずは背景に色を塗って、次いで山、手前の樹木、樹木は少し絵の具を盛り上げながら、そして最後に水面を描く。 水面に写った樹木は、まずきっちり樹木を描き、それを筆でくすませればいい。 最後は全体の色を気にしながら、少し影の色を強くして、 ほら、少し手を入れてあげよう、こうして風景ができあがる。 ぼくは、しかし、それが間違っていることだと分かっていた。 ぼくはそんな「文法」が知りたいがために絵を描こうと思ったわけではない。 だからぼくはどこかで気が滅入りつつも、 すぐさま自分がよく知っている川の絵を描こうと思ったのかもしれない。 家の横を流れる小さな川。 まずはそこからはじめるべきだろうと。 もちろんこちらも別の意味でひどい絵だったけど。 高校の美術部では絵を現場で描くことを教わった。 風景の中に身を置いて、その空気の中で描く。 いまでも覚えているのは50号大のキャンバスを片手に抱えて、もう片方の手で自転車を操り、河原に急いだ日々のこと。 放課後、暗くなる前に現場に向かい、暗くなるまで描きつづけて絵の具が混じり合い、黄土色の画面になってしまったこと。 いつしかぼくは絵画史の中に潜り込み、その奥深くに入り込んで、出られなくなってしまった。 ぼくが大学のころに描いていた絵は、かつてだれかが描いたような絵だった。 絵画を描き続けるために距離をおいていったん手にしたはずの別のメディアも、結局ぼくを絵画へと連れ戻してはくれなかった。
*** 絵を描くとき、ぼくらは言葉を使う必要がない。 絵を描いているとき、ぼくらは無言のまま画面に向かう。 絵に集中し、それ以外のことはあたまにない。 そこは美醜以前の、善悪以前の世界。 論理的な思考も、感情的な浮き沈みも混じりあったままの状態。 一方で絵は言葉を生み出す。 ぼくらは絵について語りたくなる。 だからここでは、絵を集め、絵について語りたいと思う、 言葉以前の、そして言葉以後の問題として。
ノート1:すこし具体的に、この展覧会の中で起きること *情報はその都度更新されます。 今回のギャラリーαMでは、複数のことが企画されています。 1、1/19(土)午後3時から 絵を持って歩く/ペインティング・トゥー・ザ・パブリック2 東京国立近代美術館の外からαMまで絵を持って歩きます。だれでも参加出来ます。 1/19午後3時に好きな絵(自分の絵でもだれかの絵でもかまいません)を持って美術館ゲートの外に集まってください。 ちなみに美術館は休館日なのでゲートは閉まっています。 αMまで歩いたらそのまま絵を展示してもらっても、そのまま持ち帰ってもかまいません。 みなさんのご参加をお待ちしています! 2、会期中随時 絵を持って来てもらう/ペインティング・トゥー・ザ・パブリック3 会期中は、ほとんどの絵を会場で展示できます。 だいたいぼくが自由に構成/展示してしまいますが、 それでもよければ会期中はいつでももってきて展示してください。 また会期中の好きなときに持って帰ってください。 2/1に展示された絵を見ながらみんなで話しましょう。 3、1/20(日)午後6時半から オープニング・トーク/愛について話す 最初のトークでは保坂さんと「愛」について話します。 4、日程未定 写生旅行 おそらく屋外で、湯河原とかで、絵を描きます。 あるいは都内のどこかで絵を描きましょう。 日程は未定。気になる人はいっしょにどうぞ。 5、1/27(日)午後1時から午後8時半まで 絵画TV 様々なゲストを呼び、一日限りの「絵画」についてのトーク番組を CAMPとcomos-tvといっしょに企画します。 テーマは絵画の社会性について。詳細は後ほど。 6、2/2(土) クロージング・トーク/絵と愛について話す ゲストは未定ですが、保坂さんとぼくがホストになって、ゲストに話を聞きます。 7、昔の絵を展示すること「現代美術」というものは、ぼくが予備校に通い始めたころ、とても分が悪いものでした。 「現代美術」とは、絵を描くものたち(当時、ぼくは自分をそうしたカテゴリーの中に入れていた) からすればある意味では堕落し、屁理屈をこね回す、よく分からないものでしかなかった。 ぼくはそのころ「画家」になりたいと思っていた。 ぼくが好きだったのは松本竣介や佐伯祐三であり、あるいは中川一政や須田国太郎であり、もしくは安井曾太郎だった。 この絵の展覧会の話をもらったとき、まっさきに思い浮かんだのは、ぼくがそうした想いを持っていた頃に描いた絵を展示するということ。 そのひとつが1994年夏頃に描いた実家の絵。 当時通っていた予備校の夏休みの課題「自画像」のために描いたもの。 それはもちろん郷愁を誘うためのものではない。 自分の出自を肯定するためでもない。 ただ、もういちど過去に戻り、かつての覚悟を見直すため。
[作家プロフィール] ●田中功起 たなか・こうき 1975年生まれ。 アーティストやキュレイターなどのインタビューを収録するポッドキャスト・プログラム「言葉にする」や、 アートにおける諸問題を検討するメール往復書簡「質問する」を企画し (共にここより→ http://kktnk.com/alter/)、同時に国内外の展覧会にも参加。 無意識に人びとがとる振る舞いに隠された意味や、ある限定された状況における人びとや動物の反応への興味をもとに、映像や立体、絵画や写真、テキストやコラボレーション、パフォーマンスを中心とした制作活動を展開。 活動全般を通してひとつの物事・出来事・状況が持ちうるオルタナティブを模索している。
会期中のおもなイベント 1/19(土)15時~ ペインティング・トゥ・ザ・パブリック(東近美からαM) 18時~オープニングパーティー 1/20(日)18時半~ ギャラリー・トーク 保坂+田中 1/26(土)イベント(未定) 1/27(日)13時~20時半 CAMP + comos-tv 企画「絵画TV」@αM 2/1 (金)持ち寄った絵について話す(未定) 2/2 (土)クロージング・トーク(内容未定) 予定は都合により変更します。詳細はツイッター(@kktnk)を参照。 ※会期中、会場を訪れるすべてのひとは自分が持ってきたほとんどの絵画を他のひとと共に展示することができます。
オープニングパーティー 2013年1月19日(土)18時~
全文提供:gallery αM
会期:2013.1.19~2013.2.2 時間:11:00~19:00 会場:gallery αM
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Last Updated on January 19 2013 |