金子朋樹:Recurrence東京⇌御殿場 |
展覧会 |
執筆: 記事中参照 |
公開日: 2009年 10月 14日 |
滲透する弧状の膜今展覧会のタイトルである“Recurrence”とは、“回帰”という訳です。 現在、私は東京にて制作活動及び発表を行っていますが、常々どのようなものを制作していても自分の原風景となるものが意識的、または無意識的にも作品に反映されるということを感じます。本展におきましては、学生の頃からのテーマである「回帰」を、自分自身にとっての原風景となる光景をベースに、現在の視点をもって新たな提示手法を試みます。また、観光地である反面、軍用地として重要な役割を担う出身地、静岡県御殿場市の特異な環境の、「日常の中の非日常」の断片の提示を試みています。それは、陰の中の真実として、私自身のリアリティーを喚起するものでもあります。 尚、同ギャラリーでの昨年の個展におきましては墨に特化した作品を発表致しましたが、本展では墨を基調に色彩を用いた作品を発表致します。水分をたっぷり含んだ絵具や墨を基底材となる和紙素材の上に”置いた”時、それらがゆっくりと拡張し、そしてじんわりと“滲透”していく様相は、麻や楮等の繊維の集約を越えた、一種の“膜”のようにも思います。さらに、支持体(パネル)は緩やかな弧状を描いており、よりアレンジを加えた作品を提示致します。 この弧状(ラウンド)を含めて、一つの画面の中に異なる場面や時間軸を隣合せたり、また作品の表層に絵具のたらし込みを施すなど、絵画における映像的な視覚表現を追求しています。 金子朋樹 略歴 全文提供: 金子朋樹 |
最終更新 2009年 10月 19日 |
2008年から数えて二度目となるギャラリーQでの個展。前回が墨を中心に用い富士を描いた屏風状の作品であることを思い起こせば、今回の個展は墨に加え色を用いたものが大半であり、加えて描写されているものがキャッチーになっているという点で変化が著しい。 しかし前回の富士山に加え、今回描写されているヘリコプターやパラシュートといった軍隊を想起させるモチーフは、作家の故郷が富士の麓の、軍用地でもある静岡県御殿場市だからにほかならない。つまり一見した作品の印象は異なるが、前回と今回の個展のテーマは作家のルーツという点で共通していると言えるだろう。作品が一様に薄い「膜」で覆われているかのように茫漠としているのも、〈記憶〉や〈時間〉を鑑賞者に想起させるためか。 ただ、私はそのモチーフが内包せざるを得ない歴史的重さとは対照的に、作品の表面が綺麗に過ぎることがいささか気にかかった。それゆえどのような態度をもって作品と対峙すればよいのか戸惑ったのである。だがそれは、金子がその土地で暮らしてきたがゆえの当然の画面処理なのかもしれない。そもそもすんなりと受け入れることのできる作品であれば、展覧会に行く必要などないのである。